「俺には無理だよ。」

 

 

「俺には無理だよ。」

 

 

自分に言い聞かせるように、何度もそうつぶやいた。

 

「俺は死ぬまでに絶対イイ女とヤる」

「俺はそこらのキョロ充とは違うんだ」

と、デカい口を叩いてストリートナンパに繰り出したくせに、女ひとりに声をかけることもできない自分に嫌気がさしていた。

 

「今日は疲れたから帰ろう…」

「今日は可愛い子いなかったし…」

 

と、自分に言い聞かせて、その日は帰った。








内心、分かっていた。








本当は疲れてなんかいなかった。

可愛い子だって、たくさんいた。

 

 

ビビっていたのだ。

 

 

街で自分の存在を否定されることに。

自分が非モテであることを認めることに。

 

 

単純にビビっていたのだ。

 

 

自分がただのチキン野郎ってことを分かっているから、家に着くと、急に後悔の念が押し寄せてきた。

 

 

「はぁ…今日も声をかけられなかった…」

「はぁ…俺にはやっぱり無理なのか…」

 

自己嫌悪に陥りまくった。

 

孤独。

絶望。

 

虚しさと情けなさに包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

次の日。

 

 

「今日こそは声をかける…」

「声をかけられなかったら、腹を切って死ぬ…」

 

家の玄関で靴紐を結びながら、唇をぐっと食いしばった。

 

 

ガタン・・・ゴトン・・・

 

ガタン・・・ゴトン・・・

 

 

目的地の駅がだんだん近づいてくる。

 

 

ドクン・・・ドクン・・・

 

ドクン・・・ドクン・・・

 

 

目的地が近づくにつれ、心臓の鼓動もスピードが早くなっていた。

 

心臓がバクバクする。

手には大量の汗をかいている。

 

ふー。

 

ふー。

 

深呼吸をしてみても、まったく緊張はおさまらない。

 

 

「次は終点、〇〇駅〜♪」

 

 

着いてしまった・・・。

 

目的地の駅に着いてしまった・・・。

 

ヤバイ…。

 

これからナンパをするのだと思うと、息ができない。

酸素が吸えない。

 

 

ガヤガヤとした人混みに流れを任せ、繁華街に出た。

繁華街に出ると、太ももを露出したセクシーなギャルがそこら中を歩いている。

ギャルが肩で風を切りながら、闊歩している。

 

 

「うわぁ…可愛い子いるのかよ…」

 

 

可愛い子に声をかけるために来ているはずなのに、心の中では

「可愛い子に会いませんように…」

と祈っていた。

 

 

「今日は可愛い子がいなかったから」

という言い訳を使いたかった。

 

 

でも、美人はたくさん歩いてる。

 

 

「おい、美人いっぱいいるぞ」

「おい、声をかける女はいっぱいいるだろ」

と、自分に言い聞かせてみても、足は動かない。

 

全然動かない。

 

 

「そうだ、まずタバコを吸おう…」

「ちょっと一服しよう…」

 

すぐに喫煙所に向かい、タバコに火をつけた。

 

ふー。

 

ふー。

 

 

吐き出した煙を見つめながら、

「おい、このままここで終わるのか?」

と自分に問いただした。

 

 

 

「このまま終わりたくない。」

「惨めなまま死にたくない。」

 

 

くわえていたタバコを灰皿にぎゅっと押しつけ、自分を鼓舞するかのように、自分のお尻を

「よしっ」

と軽く叩いた。

 

 

その時、ちょうど目の前をセクシーな女性が通り過ぎた。

 

 

「よし、まずはあの人に声をかけよう…」

 

 

女性の後を追い、声をかけるタイミングをうかがった。

 

 

・・・10m

 

 

・・・5m

 

 

・・・3m

 

 

女性との距離がどんどん近くなる。

 

 

近くなるにつれて、口の中がカラカラになってきた。

 

手汗で手がビチョビチョになってきた。

 

 

そして、ついに1m。

 

 

今が声をかけるタイミングだ。

 

 

心の中では

「今だ!声をかけろ!」

と、叫んでいるのに、全然声が出ない。

 

 

最初の第一声は

「すみません!」

と言おうと決めたいたのに、「すみません」の一言が出ない。

 

 

緊張しすぎて心臓が口から出そうだった。

吐きそうだった。

 

 

 

「ああああ!もうダメだ!!」
「どうにでもなれ!!!」

 

 

と、ついに女性に声をかけた。

 

 

 

「す、すみません…」

 

 

 

蚊の泣くような声だった。

正直、女性の耳には届いてなかったのかもしれない。

 

 

 

だが、女性はこちらの存在に気がついた。

こちらをジロッと見た。

 

 

まるで、乞食を見るかのような冷たい目でこちらをキッと睨んできた。

 

そして、女性はそのまま立ち去っていった。

 

 

ふう・・・。

 

 

初めての声かけは「シカト」で終わったのに、私はなぜか満足していた。

 

「俺は声をかけたぞ…」

「逃げなかったぞ…」



















「ねえ、いつまで寝てるの?」

「ギリシャに寝にきたんじゃないよ!」

 

 

はぁ・・・

なんだ、夢か。

 

 

なんかめっちゃ美人が起こしてくるけど、俺の彼女か。

 

 

そうだった。

彼女とギリシャに旅行に来てたんだった。

 

 

 

ああ、でも懐かしいな。

初めてストリートナンパをした時のこと。

 

 

あれから、何年経ったんだろう。

あれから、何人の女性を抱いたんだろう。

 

 

いろいろ辛いこともあったっけ。

 

ホテルで女の子が寝てる時に1人でガッツポーズしたこともあったっけ。









そういえば、この前高校の時の友達が

「彼女が欲しい…」

とか、なんとか言ってたな。

 

 

酔ってたからあんまり覚えてないけど、何か俺に言ってたな…

何て言ってたっけな…

何か昔の俺と同じようなこと言ってたな…










あ、そうだ、思い出した。

 

あいつ、こう言ってたんだった。

 

「俺には無理だよ。」